今、エルハムを抱き上げているのは自分だ。それに、いつも共に過ごしているのは専属護衛の自分ではないか。
 それなのに、何故愛しそうに彼の名前を呼ぶのだろう。
 今の自分の方が近い距離にいるのに、昔から一緒の男がいいのだろうか。

 そう考えていますと、自分の顔が強ばるのがわかった。


  
 そして、追い討ちをかけるように、ミツキの目に飛び込んできたもの。それは、先ほどまでエルハムが裁縫をしていた布だった。きっとハンカチに刺繍をしていたのだろう。そのハンカチには丁寧に「セリム」と、こちらの文字で刺繍されていたのだ。

 エルハムはセリムにこれを贈るつもりだったのだろう。寝ていてもしっかりと握りしめているハンカチ。彼女がとても大切にしているのがわかった。


 ミツキも誕生日などにはエルハムにお祝いしてもらい贈り物をしてもらう事もあった。
 けれど、セリムへの贈り物を見ると、怒りと焦り、嫌悪感を感じさえした。

 何故セリムに贈り物をするのか。誕生日でもお祝い事もないはずだ。
 エルハムはセリムを大切に思っているのだろうか。

 ミツキは、エルハムを起こしてすぐにでも問いたかった。