先ほど機敏な反応を見せた少年の足取りは重く、エルハムでも追い付けるようなものだったのだ。数日さ迷って疲労してるのかもしれない。少年の弱々しい背中を見て、そう感じた。
しばらくすると、トンネルの先に蝋燭以外の明かりが差し込んできた。この先にあるチャロアイトの国が見えてきたのだ。
「あそこまで行ってしまうと大変だわ。」
光る先を見つめながら、エルハムは焦った。あそこを抜けると国境を越えてしまう。そうなると、自分の力は働かない。そのため彼を助ける事は出来なくなってしまうのだ。
彼が通行証を持っていれば、だが。その可能性は薄いと思っていた。となれば、彼は強引に突破してしまうのではないか。
そんな事を考えていると、やはり悪い方に事が運ばれた。
「貴様、止まれっ!!」
「何事だ?敵襲か?」
「通行証を持ってないようだ。」
「止めろっ!その餓鬼を止めるんだッ!」
トンネルを抜けた先で騒ぎになっているようで男達の罵声が聞こえてきた。
「大変っ!止めないとっ!」
エルハムを自分を奮い立たせるかのように、強い口調で一人呟くと、更に足を早めた。
そして、トンネルを抜けた先には最悪の事態が起こっていた。
チャロアイトの門番や兵士数名が、少年を囲んでいたのだ。手には、シトロン国の騎士団と同じようなこん棒を持っていた。けれど、少年があまりに抵抗するのを見て、一人の兵士が腰にかけていた短剣に手をかけているのが、エルハムの目に飛び込んで来たのだ。
「やめなさい!その人はシトロン国が保護しますっ!」
エルハムはすぐに彼に駆け寄り、庇うように両手を大きく広げて黒髪の少年の前に立った。
「あんた………なんで、ここまで来て………。」
少年が初めて小さく声を発した。その声は澄んでいて、凛とした彼の雰囲気にピッタリ合う声だった。
けれど、その声を聞いて振り返る事が出来る状況ではなかった。