シトロン国の城は、ファンタジーゲームで出てくるような豪華で大きな城ではなかった。洋風の立派なお屋敷、という雰囲気が近いとミツキは思っていた。
 小さいと言っても、普通の家に比べれば広いことには代わりはないので、ミツキはその場所に向かうまで、早足で向かっていた。

 その場所は城の一番端にある一部屋だった。
 城の中では、アオレン王とエルハム姫の次に警備が厳重にされている場所だった。
 部屋の前にも騎士団員が2人立っているはずだった。けれど、今は少し離れた場所に立っている。
 そして、何故か落ち着かない様子で、何度もミツキの目的である部屋をちらちらと見ていた。

 ミツキが近づき、騎士団員に挨拶をすると、「あぁ!丁度よかった。どうしようかと思っていたんだ。」と、安堵の表情を見せていた。

 ミツキは何の事かわからずに、部屋の前に座り込んでいる彼女の元に近づいた。

 すると、「すーすー……。」と気持ち良さそうに寝息を立てて眠る、エルハムの姿があった。
手には、縫いかけの布と、針も持っている。


 「………こんな所で寝てしまうなんて………。しかも、針を持って……。」


 ここはセイが居る部屋の前だった。
 エルハムはセイを励まそうと、時間を見つけてはセイの部屋を訪れていた。けれど、セイが扉を開けてくれる事がなかったため、エルハムは扉の前に座り込んでいる、部屋の中にいるセイに話しかけたりしているようだった。
 今日は、何故か刺繍をしていたようで、手には針を持っていたけれど、今にも手からこぼれ落ちそうだった。

 そんなエルハムを見て、ミツキは思わず苦笑してしまう。