エルハムは彼からセリムへ送るハンカチを受け取った。その時に、エルハムが指先に傷が多数あるのに気づいた。布を巻いている所もあった。


 「ミツキ……この傷どうしたの?」
 「これは……作業してる時に傷つけて。大した傷じゃない。」
 「そうなの?でも、傷に悪い物が入らないようにしないと。」
 「………大丈夫だ。」


 エルハムが彼の手に触れようとする。すると、ミツキはハッとして後ろに1歩下がってしまったのだ。
 ミツキの行動に、エルハムは驚き思わず彼の瞳を見つめてしまう。
 自分がどんな顔をしていたのかはわからない。けれど、ミツキに冗談などではなく、理由もわからないまま避けられたのは初めてだったので、エルハムは動揺し、戸惑ってしまった。
 まるで、初めてミツキに会ったときのようだと、エルハムは思い切なくなってしまったのだ。


 「………ミツキ………。」
 「わ、悪い……今日は城周辺の見回りに行く。」
 「…………わかったわ。気を付けて。」

 
 謝りながらも、気まずい様子のミツキは足早にエルハムの部屋から出ていってしまった。

 エルハムは両手を胸に当て、胸元のドレスをギュッと握りしめる。するの、自分の鼓動がドッドッと早く鳴っているのがわかった。


 「ミツキ………。私、何かしちゃったのかな……。」


 先ほど彼が出ていった扉を見つめながら、エルハムは消えそうな声でそう呟いた。