第18話「ぎくしゃく」
ゆらりゆらりと体が揺れていた。
ほのかに温かく、ゆりかごのような揺れもあるので、エルハムはうとうとし、そのまま熟睡してしまいそうだった。
昔もこんな感覚をよく体感していたのを思い出した。まだエルハムが小さい頃。よくおんぶをしてくれる人がいた。
「………セリム……。」
城下町へ遊びに行き、その途中に眠くなったエルハムを年上だったセリムはおんぶをして城まで連れ帰ってくれたのだ。
エルハムは懐かしくなり、その当時の気分になり名前を呼んでしまう。
もちろん、返事などあるはずはない。
これは夢であり、過去の記憶なのだから。
朦朧とした頭で自分がどこにいるのかを考えると、セイの部屋の前で裁縫をしていたのを思い出したのだ。針を使っての刺繍の作業だ。寝てしまっては危ないし、部屋の前で寝てしまってはセイにも、使用人や騎士団員にも迷惑だと思い、眠い瞼をゆっくりと開けた。
すると、思いもよらないモノが目に飛び込んできたのだ。
少し日焼けした肌に、黒い髪の毛。そして、エルハムが好きな真っ黒な瞳。けれど、その目はエルハムを見ることはなくただ真っ直ぐ前を向いていた。
ミツキは、エルハムに抱き上げながら廊下を歩いていた。刺繍をしながらうとうとしてしまっていたエルハムを彼が見つけて、部屋へと運んでくれているところなのだろう。
エルハムが目を覚ました事に気づいていないミツキを、エルハムは隠れ見てしまう。