自分は何を思っているのだろう。
 城の人達や騎士団員、街の人達と会うときはいつも仏頂面で怖がられていたミツキ。自分だけに笑うと知り、彼に「他の人と話すときも笑えばいいのに。」と言ったのは自分だ。それなのに、何故彼を独占するような言葉がこぼれ落ちてしまったのか。エルハムは、頭が混乱した。
 ミツキは「笑いたい時に、笑うだけです。」とあの日言った。
 それは、今あの使用人の女の子と話している時も笑顔になるぐらいに楽しいのだ。

 今まで感じた事のない、ぐじゃぐじゃとした感情と目の前の見たくない光景から逃げるように、エルハムはミツキ達に背を向けて走った。

 ミツキが他の人と仲良くなるのは良いことなのだ。
 笑顔を見せれるようになったのも、彼にとってはプラスになら事なのだ。
 そう言い聞かせても、エルハムは胸のモヤモヤが晴れることはないまま急いで部屋に戻った。
 けれど、しばらくしたらミツキが探しに来るであろうエルハムの部屋には居座る事ができず、すぐに部屋を出たのだった。
 今、ミツキに会ってはいけない。そんな気がした。









 
 エルハムが逃げるように向かった先は、ある部屋の前だった。その部屋の前には、2人の護衛が剣を持って立っていた。

 そして、エルハムがそちらに向かってくるのがわかると、深く頭を下げた。


 「騎士団の皆さん、護衛ありがとうございます。また、ここにお邪魔したいので、少し離れたところに居てください。」
 「かしこまりました、エルハム様。何か変わったことがありましたら、すぐにお知らせください。」
 「わかりました。」


 エルハムが返事をすると、2人はそれぞれ廊下の別の方向へ向かい、声が聞こえるか聞こえないかの距離で立ち止まり、また剣を取ってその場に立ち周りを確認していた。

 エルハムはそれを見てから、エルハムの部屋よりも大分小さなドアを小さくノックした。