だが、いくら黒髪の少年が強いとはいえ、木と剣では勝負にならないはずだ。少しでもかすれば少年は傷を負ってしまう。
そう思った時には、エルハムは2人の剣士の前に立ちはだかっていた。
「「っっ!!」」
セリムと少年は、まさに動き出そうとしていた所だったようで、驚愕の顔で持っていたそれぞれの武器を止めた。
一歩間違えれば、怪我をしていたかもしれない。けれど、目の前でボロボロになった自分より小さな少年が傷つくのをただ見ているよりましだと、エルハムは思ったのだ。
「姫様っ!?」
「セリム。彼が持っているのは木の剣よ。その剣で戦って傷つくのは誰?私より小さな男の子に剣を向けるのは、私が許さないわ。」
「姫様、しかし………。」
「私が彼を保護する。」
「それは危険です!」
セリムはエルハムを心配して言ってくれている。それはエルハムにもわかっていた。
けれど、自分の国に居る少年が薄汚れてボロボロになって困っているのをエルハムは放ったり、見捨てたりなど出来なかった。
笑顔にする、のが自分に課せられた役目なのだから。
エルハムがセリムを説得しているうちに、少年は逃げる好機だと思ったのか、トンネルの奥に駆けて行ってしまった。エルハムは「あ、待って!」と、その後を追う。そして、振り向きセリムを見た。
「私が話をしてくるわ!」
「姫様っ!」