「確かに、コメットに襲われたことは怖かった。けど、あの日から国の人達を信じるのが怖くなってしまったの。少しでも悪いことをしなら、みんなに嫌われてしまう。それが恐ろしくて仕方がなかった。」
 「………姫様……。」


 皆を思い公務を行い、毎日のようにどうやったら国はよくなるか、幸せになれる人が増えるのか考えていた母。
 みんなに好かれ、町を歩く度に声を掛けられ感謝させる母の姿をエルハムはずっと見てきたのだ。

 それなのに、根も葉もない噂一つで状況は一変してしまうのだ。

 それが怖かった。


 「こんな私を誰も好きになってくれないと思っていたけど、今はみんな優しくしてくれる。それは嬉しいわ。とても、幸せだし、それを返したいと思ってる。けれど……頭の片隅にいつも「これをしたら嫌われないかな。」「これを言ったら怒られないかな。」と、思ってしまうの。」

 エルハムは、落ち込みながらも自分の気持ちを伝えた。すると、ミツキは優しく微笑みながら、「そんな事を心配していたのですか。」と笑ったのだ。
 エルハムは驚き、ミツキを見つめて。

 「そんな事って………私はずっと悩んでいたのよ?」
 「姫様。人は失敗する生き物です。それは俺だって、アオレン王だって、セリム団長も、姫様も………そして、シトロン国に住む人全員が、間違える事があるんです。間違えてしまったから、みんな嘘の噂に騙されたんです。」
 「………そうだけど………。」
 「間違えてしまったら、何度も教えればいいんです。「違うよ」って、気づいてくれるまで。そして、嫌わないで信じていればいいんじゃないですか。ティティー王妃のように。そうすれば、ティティー王妃が最後にみんなが気づいてくれてように、姫様が何か間違っても教えてくれて、「違うよ」と言って、正しくなるのを待ってくれるはずですから。」