エルハムは、その時の事を思い出すと、涙が止まらなくなった。罵倒し、石を投げて抗議していた人達が、母の死を嘆き、そして謝り、感謝してくれた。とても大切な人を亡くしたと泣いてくれた。
 心を締め付ける、母を苦しめていた噂はなくなった。
 これで、きっと母は心から笑顔になれるだろう。そう思い、母との別れを悲しみながらも、エルハムは笑顔で見送る出来たと思っていた。


 けれど、心の傷は簡単には癒えなかったのだ。


 「そうでしたか。そんな事があったのですね。幼い頃に襲われて、母親を失った原因との再会。それは、恐ろしいですよね。」

 ミツキは繋いだ手を先程より力を強めて握りしめてくれる。それが、ミツキが自然としてしまった事なのか、勇気づけようとしてくれた事なのか、エルハムはわからなかったけれど、ミツキのゴツゴツとした手を強く感じられて安心してしまう。

 彼の前ならば、本当の気持ちを話し、素直に泣いて言いと言われた。それを思い出して、エルハムはおそるおそる口を開いた。