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 エルハムは、昔の話しを途切れ途切れに、そしてゆっくりと語った。時々、頭がくらくらしたり、恐怖に襲われて体が震えることもあった。
 けれど、その度に手を握ってくれるミツキが「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。それだけで、辛い過去から少しだけ気が紛れ、
話し続ける事が出来たのだ。
 もし泣いたとしても、倒れそうになったとしても、ミツキならば優しく最後まで話を聞いてくれると信じられたから話せたのだと、エルハムは思った。


 「その後に、騎士団やチャロライト国が調べていくと、チャロライト国の反対組織のコメットが犯人だろうと目星がついたの。セリムが私を守って戦った人も、セイが話した服装と同じ真っ黒だったと聞いたわ。私は逃げてばかりで見ていなかったから、セイの話しを聞いても思い出せなかったみたい……。」
 「王妃様を殺したのが、コメットだったのですね。」
 「………そういう事になるわ。王妃が亡くなった事で国が荒れた時にコメットがシトロンを攻めるつもりだったのかもしれない、とお父様は話していたわ。けれど、結局は逆に国の結束は固くなり、チャロライト国の兵達もコメット鎮静にも力を貸してくれたの。だから、当時のコメットの主要メンバーはすべて捕まえられる事が出来たわ。」
 「そうでしたか。」

 ミツキは、少しホッとしたような表情を見せたけれど、まだ何か気になる事があるようだった。もちろん、エルハムもそれに気づいていた。
 きっと優しいミツキは、それを言い出しにくいのだろうとエルハムはすぐにわかって、小さく微笑んだ。


 「お母様の噂はどうやって収まったのか、聞きたいのよね?」
 「…………はい。」

 戸惑いながらも頷くミツキにらエルハムは丁寧に話しをした。当時の事、しっかりと思い出しながら。


 「お母様の最後のお別れの日。シトロンの国では誰でも花を手向けられるようにしていたの。お祈りしてくれる人も多かったけど、文句を言った、罵倒する人も多かった。………王様や私が何度説明してもダメだったの。けどね、その時、城で働いている沢山の人達と、騎士団の人達が立ち上がってくれたのよ。大きな声を上げて「そんな噂はでたらめだ。」「ティティー王妃は優しく気高く、そして皆を愛していた。」と、説明してくれたの。エルクーリ家ではない、国の人の言葉。特にお母様に近いところで働いている人の言葉は、とても響くものがあったみたいで……少しずつ噂は嘘なのだと皆わかってくれたの。そして、お母様が今までしていた事を思い出してくれた。………だから、お母様は、最後にみんなに見送られて、天へと向かったわ。」