第15話「奇襲」


 その後、ティティー王妃の噂は収まるどころか、悪化する一方だった。
 そのためエルハムも外出を控えるようになっていた。

 けれど、アオレン王とティティー王妃は公務を止めるわけにはいかず、騎士団に見守られながら出掛ける日が続いた。
 騎士団員が見守る中でも、中庭に火が投げ込まれぼや騒ぎになったり、謁見中に暴れてアオレン王に掴みかかろうとする人がいたりと、暴動が起こる一歩手前まで来ていた。

 アオレン王もティティー王妃もそれについては否定し、話しを続けていたけれど「実際に遊んだという男がいるぞ。」や「ドレスを注文してきたわ。」とデマを言う人まで増えており、2人の言葉はシトロンの人々に伝わることはなかった。

 そんな中、エルハムはただ怯える日々を送っていた。
 いつも笑顔で挨拶をしてくれて、優しいシトロンの人々。そんな人達が一転して、怒りを表し攻撃をしてくるのだ。
 どうして母の言葉ではなく噂を信じてしまうのか。エルハムは、それがわからなかった。

 エルハムはこっそり城を抜け出してシトロンの城下町に行って、いつも声を掛けてくれた人々に母の事を説明した。
 けれど皆がエルハムを憐れむような目で見て、「子どものエルハム様は何もしらないだけ。」と、相手にしてくれなかったのだった。

 それから、エルハムは自国の人々に会うのが怖くて城に閉じこもる事が多くなっていた。