「またセリムに見つかったら怒られちゃうわね。」
 「………今日ぐらい多めに見てくれるでしょう。」
 「そうだといいけど。」


 エルハムとミツキは苦笑しながら、同じことを思い浮かべた。

 こうやってエルハムがミツキを呼び、夜中に話しているのが、ある日セリムにバレたのだ。
 そして、「年頃の女性が夜中に男を入れるなんて感心できません。」と怒られたのだ。それから、2人が夜にこの部屋で会うことはなくなった。
 自分が悪いとはいえ、夜の楽しみがなくなって、当時のエルハムは悲しんでいたものだった。


 「姫様、今日はどうしたのですか?何かまた、怖い夢を見たのですか?」
 「………えぇ。また、怖い夢だった。ううん、昔の記憶かしら。お母様が亡くなった時の事よ。」
 「それは、昨日のコメットの奇襲と関係あるのですか?」
 「…………えぇ。話すのも怖くて、ミツキに話してなかったわね。思い出すのも嫌なの、きっとまた震えて泣いてしまうわ。」
 「姫様、無理に話さなくても………。」
 「ううん。あなたにも話しておきたいの。これからコメットが私を狙う理由を。………あなたが私を守ってくれるのだから。あまりいい話ではないけど聞いてくれるかしら。」
 「……はい。」

 
 エルハムが意を決して話そうと決めた。
 けれど、夢で見ても泣いてしまう事を自分で思い出して話すのが怖くて仕方がなかった。
 不安そうにしているのが、ミツキに伝わったのだろうか。
 冷たくなっていた手に温かさを感じたのだ。

 エルハムの手に、ゴツゴツとして温かいミツキの手が被さり、包まれていたのだ。

 それを感じるだけで、エルハムを安心してしまうから不思議だ。

 エルハムはミツキの手を優しく握り返してから、重たい口を開けて言葉を紡いだ。

 ミツキがシトロンの国に来る前の、彼の知らない物語を。