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エルハムが目を覚めると部屋は真っ暗だった。
夕御飯も食べずに寝てしまったようだ。
部屋のカーテンが閉められ、ベット脇のサイドテーブルには水と果物が透明なガラスの蓋をされて置いてある。
使用人に気配りに感謝しながら、エルハムは水を一口飲んだ。
「はぁー………やはりあの夢を見てしまうのね。」
エルハムはため息をつきながら、手に持ったガラスのグラスを見つめた。
大好きだった母がいなくなってしまった時の事。そして、いなくなる直前の弱った笑顔。罵声。悲鳴。泣き声。歓喜の声。
その記憶にのまれそうになった時、体がぐらりと傾き、持っていたグラスから水が溢れた。冷たい感覚で、エルハムはハッと意識を取り戻した。
「駄目だわ………また気持ちが落ち着かない。」
エルハムは、グラスをテーブルに戻しながら、ノロノロとベットから立ち上がった。
今は一人になりたくない。夢が現実が、自分の弱さが怖くて仕方がなかったのだ。
エルハムがたどり着いたのは、いつもエルハムとミツキが座る椅子が置かれている場所だった。エルハムはそこに座り込むと、絨毯がひかれている床に手を着いた。
そして、少し強めに床をコンコンッとドアをノックするように叩いた。
コンコンッ
2回目も叩き終わり、エルハムはノロノロとまた動き出した。今度は、部屋のドアに向かったのだ。
ドアに体をくっつけると、ひんやりとした感覚が伝わってくる。
そしてドアに耳を当てると、小さく足音が聞こえてきた足音をたてないようにしているが、少し焦っているのか早足になっている。
エルハムは、ゆっくりとドアを開ける。
すると、そこには寝ていたのだろう、少し髪がボサボサのままのミツキが居た。