そんな事を考えながら、城の廊下を歩いていると、前を歩いていたセリムがこちらを向いた。
金髪にオレンジ色の瞳、そして白い肌に柔和な顔つき。日本にいたら確実に「王子様」と女に騒がれるタイプの色男だ。
そんな男が、ミツキを睨み付けるように見ている。ミツキ自身、セリムに嫌われているのはわかっていた。けれど、ミツキは特に気にする事はなかった。
「セリム騎士団長。どうしましたか?」
「………ミツキ、おまえはエルハム様からコメットについて何か聞いていたのか?」
「いえ。姫様からは何も聞いたことはありません。」
「そうか………ならば、エルハム様が何故体調を崩されたのかもわからないか。」
「………そうです。セリム騎士団長、ご存知でしたら教えていただけませんか?」
専属護衛として知っておいた方がいいのではないか。そう思いミツキはセリムに問いかけた。
けれど、セリムは微笑んだ後に「それは出来ないな。」と、冷たく言ったのだ。
「エルハム様がおまえに話してない事を私から話す事など出来ない。おまえに話す必要がないと判断したのだろう。……この件に関しては私が何とかしよう。ミツキはエルハム様の護衛だけをしてればいいだろう。」
小馬鹿にしたように薄ら笑いを浮かべながらセリムはそう言うと、また背を向けて歩き出した。自分よりも大きく鍛えられた背中を見つめながら、ミツキは大きくため息をついた。
「まぁ、あいつが言ったことも正論だから何も言い返せないな。」
セリムはエルハムの部下だ。
そんな彼が、エルハムの事を勝手に話せるわけもないのだ。それは、ミツキにもよくわかる。けれど、セリムの言い方が鼻につくのだ。
セリムは自分以外の周りの人達には、優しくて紳士的な男なのだ。自分がそうさせているのだと思うと、仕方がないとは思えど、あんな態度はミツキを苛立たせるだけだった。
「エルハムは大丈夫なのか………。何を我慢してるんだ?」
遠くに見えるエルハムのドアの方を向きながら、ミツキはそう小さく呟いたのだった。