第13話「昔の合図」




 ★★★



 ミツキがエルハムのあんな顔を見たのは初めてだった。
 幼かった自分を怪我をしてまで助け、そしてセイが襲われた時も怖がりながらも、セイやミツキを心配した。
 そんな彼女が、顔を真っ青にして体を震わせて、そして何か思い出したくないものを見ているようで、ずっと怯えた様子だった。

 けれど、ミツキは彼女が何故そんなにも怯えているのかわからなかったのだ。
 エルハムはセリムが言った「コメット」という組織。それを聞いた途端にエルハムの様子がおかしくなった。
 そしてエルハムは「幼い頃」とも話していた。それはきっとミツキがこの世界にくる前の事なのだろう。
 自分の知らないエルハムの事を考えると、ミツキは妙な焦りを覚えた。
 そして、前を歩く騎士団長のセリムはもちろんそれを知っているのだ。そう思うと何故か苛立ってしまうのだ。
 日本ではない異世界なのだから、どうでもいいと思っているはずなのに、エルハムの事になると知らないうちに本気になってしまう。

 異世界に来た時に彼女に助けられた。その恩は返さないといけないとは思って専属護衛や騎士団の仕事をこなしていた。
 いつか日本に帰る時に、彼女にしっかりとお礼が出来て、後悔をしないように。そんな事を思っていたはずだった。
 けれど、気づくと日本の事などほとんど忘れ、彼女の事だけを考えてしまう日々が続いているのにミツキは気づいていた。

 だからだろうか。
 知らない彼女の姿に戸惑い、不安になり、そして知りたいと思ってしまうのは。