「………セイ。おまえは私の娘と仲良くしてくれていた。美味しい果物を両親とよく届けに来てくれた。私はおまえが生まれ時から見てきたからよくわかる。………何かあったのだな?話してくれないか?」


 まるで、自分の娘であるエルハムをあやすように、アオレンはセイに語りかけた。
 その優しさを、エルハムは知っていた。
 国のために厳しい顔を見せることも多い父。けれども、根はとても優しく、エルハムは父に強く怒られたことはほとんどなかった。アオレンは、何かあったとしても話を聞き、気持ちを受け止めてから自分の考えを伝えてくれる。
 そんな父であり、シトロン国の王であるアオレン。彼は、エルハムにとって自慢の人であった。


 セイは、もしかしたらすぐに処罰されると思っていたのかもしれない。
 真っ青になり震えていた彼女の顔は、すぐに変化した。
 驚いたまま開いていた瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。嗚咽混じりの声が謁見の間に響いた。
 エルハムも、そしてアオレン王も、セイの言葉を静かに待った。きっと、彼女は話してくれる、と信じて。


 しばらくすると、セイは縛られたままの手を強く握りしめながら、ゆっくりと口を開いた。


 「少し前の事です……夜中に突然見知らぬ人たちが家に押し入って来たのです。口元と頭を真っ黒な布で覆い、同じ黒のマントのようなものを着た数人の人でした。そして、持っていた剣で、両親は刺されてしまい、そのまま………。」
 「な、何て事を……。」
 「…………。」


 あまりに悲惨な話に、エルハムは悲鳴のような声を上げてしまった。アオレン王は、真剣な目付きのままセイを見つめていた。


 「私にも短剣を向けてきたのですが、私とエルハム様がよく店先などで話しているのを知っていたようで、その短剣で太ももを斬った後にこう言われたのです。「エルハムを殺したら、命とこの店は助けてやる。」と………。殺れなければ、店ごと燃やして殺してやると言われて、使っていた短剣を渡されたのです。……それから、ずっと私を見張っている黒い服の人が店の周りを彷徨くようになったのです。」
 「………セイ。そんな事があったなんて……。」
 

 ボロボロと涙を溢すセイは、縄で繋がった手で涙を拭きながら話を続けた。
 両親を殺され、自分も傷ついたのだ。
 話しているだけでも彼女の心の傷はますます大きくなってしまいそうで、エルハムは話をするのを止めさせたかった。
 けれど、アオレン王はまだ彼女が何かを伝えようとしているのがわかり、無言のまま優しい瞳でセイを見つめていた。