「なるほど。突然、青果店の娘セイに襲われ、エルハムを守ろうとしたミツキが傷を負ったか。」


 考え事をしていたエルハムの耳に、父アオレン王の声が届いた。そう、今は謁見で先ほどの事件を伝えている時なのだ。
 少しの間と言えど、他の事を考えてしまった自分を叱り、エルハムはアオレンの話に集中した。


 「では、セイ。」
 「……………。」
 「おまえはエルハムを襲おうとし、庇ったたミツキを短剣で切り、その後もミツキと争おうとした。そうなのか?」
 「…………はい。」


 セイは、ただ呆然と謁見の間の床を見つめたまま、小さな声で肯定の返事をした。
 その声が、エルハムには重くのし掛かってくるかのように大きく聞こえた。


 「………セイ。おまえは、自分の姫に危害を与えようとし、そして姫の専属護衛を傷つけたのだ。その罪がどれほど重いか、わかっているな。」


 その言葉は、とても強く冷たい物だった。
 セイはそれを聞いた瞬間にビクリと体を震わせて、やっとアオレンを見た。
 すると、アオレン王の様子が少し変わった。
 先ほどまでは、とても厳しい表情だったが、セイが顔をあげた瞬間に、自分の娘を見るように微笑みかけたのだ。
 それを見て、セイは驚いたように目を見開いていた。