第10話「消えた言葉と枯れない涙」
自分を傷つけようと襲われる。
自分の目の前で自分を守るために誰かが血を流す。
エルハムは、この2つを同時に初めて経験した。
シトロン国は平和だ。
隣国の2つの国とも今は良い関係を築いている。
そう、「今」は。
エルハムが生まれる少し前。エルハムにとっての祖父の代ではまだ争いも多かったと聞いていた。争う目的は、シトロンの良好な土地環境だった。太陽が降り注ぐ適度な気温に風。そして、雨も一ヶ月に数回は降る。その気候が通年を通して続く。
また、シトロンの島はほとんどが海に囲まれている。今は船での物を運ぶのは危険とされていてあまり行ってないが、技術が発展すれば物流も盛んになる。
そのような事から、シトロン国は他国から見れば、良好な物件なのだ。
そのため、古い歴史の中で沢山の戦いが起こったようだった。けれど、シトロン国はエルクーリ家から離れたことは1度もない。
それが奇跡とも、シトロン国に守られているとも言われていた。
けれど、エルクーリ家がいつも狙われているのは事実だ。
エルハム自身も実感していた。
そして、子どもの頃も。
エルハムは、「自分にはいつも危険が迫っている。……忘れてはいけない事なのに。」と、心の中で母を思い出していた。