その後、シトロンの城にエルハム達は戻ると、すぐに謁見の広場に集まることになった。もちろん、事件の真相を王であるアオレンに報告するためだ。
 けれど、エルハムはミツキを先に手当てをするように使用人に伝えた。ミツキは、少しだけ不満そうにしていたけれど、エルハムが心配しているのを感じ、大人しく医者の所へと向かった。

 そのため、アオレンとの話はエルハムと数人の騎士団員。そして、縄で手首を縛られたセイだけだった。青い顔をして意気消沈している彼女を見るのは、エルハムもとても辛かった。
 自国の民、そして同年代の友人として親しくしてきたセイ。その彼女に剣を向けられたのはショックだったけれど、エルハムは彼女がどんな想いで剣を取ったのか。それが知りたかった。


 そんな想いでうつ向くセイを見つめていると、正面に父であるアオレン王が青いマントをなびかせながら現れた。アオレン王が視界に入ると、待っていたエルハム達は、頭を下げる。
 そしてアオレン王が、金色の装飾が豪華な椅子にゆったりと座ると、視線をエルハムとセイに向けた。その表情はいつもの優しい父とは違い、険しいものだった。それを見てか、セイが体を小さく震わせてるのが、エルハムはわかった。


 「皆、頭を上げてくれ。………自国シトロンで騒ぎがあったと聞いた。何が起こったのか、簡単には聞いているが。……さて、私の愛しき娘、エルハム。先ほどおまえが見たことを私に教えてくれ。」
 「かしこまりました、お父様。」


 エルハムはゆっくりとお辞儀をした。その時に見えたのは自分の着ているドレス。
 エルハムはライトグレーのドレスに着替えていた。ミツキの血がついた物で謁見するわけにもいかずに、着替えをしたのだ。
 
 彼の血がついたドレス。
 自分が10年前に背中を怪我した時はそれほど痛くなかったように思うのに、彼が怪我をしている姿を見ている方がエルハムは心が痛んだ。

 そんな彼の事を思い浮かべながら、エルハムは事件の発端をゆっくりと丁寧に伝えた。
 セイはそれを何も言わずにただ聞いていた。


 エルハムは、セイが何故こんな事をしてしまったのか。それも気になっていた。


 けれど、何よりもミツキが心配で仕方がなく、謁見の間の扉が開くのを今か今かと待ちわびていたのだった。