「……姫様。俺はそれぐらいの傷大丈夫です。それより、ここは危険です。また、誰かに襲われるかもしれない。」
 「………私は大丈夫よ。」


 ミツキは、心配しているエルハムよりも周りの敵を気にしている。それは騎士にとっては当たり前で、当然の事なのだろう。
 けれど、エルハムは傷ついた彼を見ていると胸が痛んだ。
 彼が傷ついてまで守ってくれるのに、自分はそれを見ているだけなのが、とても切なく苦しく感じてしまったのだ。
 この気持ちが一国の姫あるまじき思いなのだとエルハムは自分でもわかっていた。
 
 けれど、この感情は消える事はない。そうエルハムはわかっていた。



 「姫様?」


 突然黙ったまま考え込んでしまったエルハムも、ミツキは心配そうに顔を覗き込んで見つめた。
 彼と視線が合った時、エルハムはゆっくりと口を開いた。


 「あなたが守ってくれるから、私は大丈夫なんでしょう?そんなあなたが傷を負ったり、命まで危うくなったら、誰か私を守るの?」
 「………それは。」
 

 ハンカチでは押さえられなくなったミツキの血の生温い感触が、エルハムの手に伝わってきた。
 けれどわエルハムそんな事を気にする様子もなく、彼に寄り添いながら、泣きそうな瞳でミツキを見上げた。


 「お願いだから、ミツキが傷つくような無茶はしないで…………。」
 「姫様………。」



 ミツキは1度目を見開いた後、困った顔でそう言うだけで、彼は頷いてはくれなかったのだった。