青果店に集まっていた人がザワザワと大きな声で誰かを呼んでいた。話の中に騎士団という言葉を聞き、エルハムは少しだけ安心した。巡回中だった騎士団員が、この人だかりを発見して見に来たのだろうと、エルハムは思った。


 「エルハム様!?」
 「エルハム姫っ!大丈夫ですか?」


 数人の騎士団員が慌てた様子で、エルハムに駆け寄ってきた。

 
 「私は大丈夫です。それより、セイ……そして、ミツキを。」
 「ミツキ?ミツキはどうしたのですか?」
 「彼は私を助けて怪我を負ったのに、また違うところへ行ってしまったの。きっと、襲った仲間を見つけんだと思うのだけど。」
 「わかりました……では、私がここ周辺を見てきましょう。」
 

 エルハムに駆け寄ってきた騎士団員の1人がそう言い、腰に差している剣の柄を握りしめながら駆け出そうとした。
 その時、エルハムが心配してならない彼の声が聞こえて来たのだ。


 「その心配はありません。今、戻りました。」
 「ミツキっ!大丈夫だったの?」
 「すみません、姫様。先程仲間と思われる不審な人物を数人見かけたのですが、見失いました。」
 「……違うわ。」
 「え………。」
 「そんな事じゃなくて、あなたの怪我よ。」


 エルハムは彼を叱るように声を上げると、持っていたバックから真っ白な生地に綺麗な刺繍がついたハンカチを取り出して、エルハムの腕の傷に押し当てた。
 すると、みるみるうちにハンカチは真っ赤に染まっていく。まだ、彼の傷の血は止まってないのだ。