「先に謝っておきます。すみませんっ……。」


 その言葉を言い終わる前に、ミツキは動き出していた。腕から変わらずに血が出ている。痛くないはずはない。けれど、ミツキは睨み付ける相手に向かっていった。

 彼の動きは早かった。
 訓練を受けていないセイ相手に、油断することもなくボクトウの切先で、短剣を持っていた右手首を強く叩いた。その衝撃で、セイは「いっっ!」と低い悲鳴を上げながら、持っていた短剣を手放してしまった。
 その隙に、木刀の柄頭(つかがしら)を使ってセイの腹を強く押すと、彼女の体から一気に力がなくなり、その場に倒れ込んだのだ。


 「っっ!!セイっ!」
 「大丈夫です、姫様。気を失ってるだけです。」


 ミツキはセイの体を支えながら、そう言うけれど、何故かまだ表情は厳しかった。
 駆け寄ってきたエルハムに、「この人をお願いできますか?」と言うと、すぐに雑踏の中に消えて行ってしまった。
 これだけの騒ぎがあったのだ。セイの青果店の周りには人だかりが出来ていた。
 けれど、そんな事も気にならないぐらいに、エルハムは動転していた。

 目の前には動かずぐったりとしているセイ。
 そして、近くにはミツキを傷付けた短剣。剣先には真っ赤な血がついており、店先にも同じ血痕がテンテンと落ちていた。
 そして、ぐちゃりと落ちた青い果実。
 それを見つめて、エルハムは「ミツキ………。お願いだから無理はしないで早く戻ってきて。」と、セイを胸に抱き締めながら呟いた。


 その時だった。

 
 「皆さん、どうしました?何事ですか?」
 「あぁ、シトロン騎士団が来たぞ!」
 「よかった!姫様が大変なのよ……!」