第9話「待ちわびる音」





 目の前に飛び散る真っ赤な血。
 煉瓦の道や青い果実、そしてエルハムの青色のドレスにもその赤が飛んできた。

 ミツキが防具がない腕の部分を切られたようで、そこから次々に血が流れ出ていた。


 「ミ、ミツキ………血が……。」


 エルハムは驚きと恐怖で顔を歪ませ、体が震えていた。
 けれど、ミツキは至って冷静だった。
 

 「姫様、俺は大丈夫ですので、こちらでお待ちください。」


 そう早口で伝えると、ミツキは腰に差してあった「ボクトウ」を手に取り構えた。
 「ボクトウ」とはニホンから唯一ミツキが持ってきた物だ。ケンドウで使うものであるが、稽古では使わないと彼から聞いた。相手を傷付けてしまうほどの重みがあるし、ボクトウは他に用途があるらしい。
 そう教えてくれたミツキだが、それを持って自分より小さな女性に切先(きっさき)を向けたのだ。
 それがどういう事なのか、エルハムはすぐに理解した。
 ミツキは、セイを敵だと判断したのだ。