「………おまえ達だったか。こんな山奥に何用だ?巡視の時間ではないはずだが。」
 「前の巡視の一人が、異常があるとの事で増援を求めて戻ってきたのです。」
 「異常というのは?」
 「エルハム様っ!?」


 草むらから飛び出てきたエムハムを見て、騎士団員は驚きの声を上げた。突然、自国の姫様が現れ、そして雨に濡れ、そして泥まみれになっていたのだ。驚愕してしまうのも無理はない。
 けれど、エルハムはそんな様子を気にもしないで、騎士団員に声を掛けた。


 「話していただけますか?何があったのでしょうか?」
 「はい。この先にありますチャロアイト国に繋がるトンネルの入り口で、見知らぬ少年が座っておりまして。声をかけても、全く動こうとしないのです。」


 その話を聞いて、エルハムは迷子か他の国から逃げてきたかだと思った。どちらにしても、きっと雨の中さ迷い、大変な思いをしているだろう。そう考えたのだ。

 セリムは騎士団員から詳しい話しを聞いているようだったが、もし怪我したりや病気になっていたら、一刻を争うことになる。
 それに気づくと、エルハムは自然と体が動いていた。早く助けなければ、という一心でチャロアイト国へのトンネルを目指して駆けていた。

 雨水を吸ったドレスは重く、山奥のため草木も茂っており走りにくい。
 けれど、エルハムは走った。


 「この国では、私が人々を守らなければいけない。そう誓ったのだからっ………。」


 後ろの方から、エルハムがいなくなった事に気づいたセリムや騎士団員がエルハムを呼ぶ声が聞こえた。距離にしてもそれほど離れてはいないはずだ。
 先程、エルハム達が居たところはトンネルのすぐ近くだ。エルハムがトンネルに着く頃にはセリム達は追いつくだろう。
 そう思い、枝や葉であちこちに傷を作りながら、エルハムは弱っているだろう少年の元へと急いだ。