「…………嬉しいのかはわかりません。もう日本に帰れるとは思っていなかったので。10年もシトロンで暮らしていて、まだ日本に戻るのかと思うと……、正直に実感がわきません。」
 「帰りたくはないの?」
 「………どうなのでしょうか。でも、この国で日本の話を聞きたいとは思います。俺の他にも日本から来た人がいるのか。どうしてここに来たのか。知りたいとは思います。」
 「そう。…………わかるといいわね。」
 「はい。」

 ミツキは、やっとエルハムの方を向いた。
 その表情は、いつもの穏やかな彼に戻っており、エルハムもつられるように微笑みを返したのだった。




 城への帰り道。
 そこでも、エルハムは行きと同じように城下街の人々に声を掛けられていた。

 「エルハム様っ!ごきげんよう。」
 「あ、セイ。ごきげんよう。お久しぶりね。」

 挨拶をされた中にいたのは、エルハムより背が低い赤毛の女性だった。茶色のふわりとしたワンピースに赤いエプロン姿がよく似合ってる。セイはにこやかに手を振りながら、こちらに駆け寄ってくれる。

 「セイ。お元気だった?お店は順調かしら?」
 「ありがとうございます。今日も沢山のおいしい果物が揃っていますよ。エルハム様、寄っていかれませんか?」
 「ええ。もちろん。」

 エルハムとセイは歳が近い事もあり、よく話をしている街の人の一人だった。
 明るくて活発な性格も似ているせいか、エルハムは友人のように接していた。セイはエルハムが姫という事で遠慮しているようだったが、それでも気軽に声を掛けてくれるのはエルハムも嬉しいことだった。

 セイの家は青果店だ。
 新鮮な果物を自分達で育てたり、隣国から買い付けたりしながら店を営んでいる。セイのお店の果物はとてもおいしいため、客も多く城でもよく購入しているし、レストランなどにも出荷していると聞いたことがあった。