第8話「動揺と青い果実」
勢いよく本屋の店主に詰め寄るミツキ。
けれど、丸眼鏡の店主は眉を下げて、申し訳なさそうに口を開いた。
「申し訳ないです、エルハム様の騎士殿。ニホンという言葉を本で読んだのか、人から聞いたのか、忘れてしまったのです。……ただ珍しい言葉だったのでニホンという言葉だけは覚えていたのですが………。」
「そうですか……。」
「お役に立てず、申し訳ないです。何か思い出しましたら、すぐにお伝えいたします。」
「こちらこそ、大きな声を出してしまい、すみませんでした。よろしくお願いします。」
すぐに冷静になったミツキは、店主に深く一礼をすると、そのままエルハムの後ろに戻った。エルハムは、顔を見なくても彼が動揺しているのがわかった。
「本を見つけてくれてありがとう。お代はこちらに置いておきます。それと、少しでもいいから何か思い出したら連絡をお願いします。でも、思い出せないからと言って気に病まないでくださいね。」
「ありがとうございます。エルハム様。………今度、本をご注文の時はこちらからお城へお届けに参ります。」
「いいの。私が街を歩きたいだけだから。では、またお願い致しますね。」
エルハムがそう言うと、店主は深々とお辞儀をした。それを見て、エルハムとミツキは店を後にしたのだった。