「すごいわ………何だか、光の形を表してるように見える。」
 「その漢字は、絵から少しずつ形を変えて、今の文字になったから、光も昔は絵で書かれてたんじゃないか?」
 「………そう。ニホンには素敵な文字もあるのね。」


 エルハムはミツキが教えてくれるニホンの世界に夢中になっていた。
 どんな本よりも素敵で、自分でも想像でにないような未来の国のように思えた。


 「そんなに気に入った?」
 「ええ!」
 「じゃあ、俺も少し日本語を教えるか?」
 「………ミツキ、それは本当?」
 「あぁ。時間があるときで良ければ。」
 「……嬉しいわ、ミツキ!ありがとうっ!」


 ミツキの提案は、エルハムにとって夢のようだった。
 少しでもニホンという国を知り、そしてミツキに近づけるようで、エルハムは嬉しかった。それに、何より彼がそんな提案をしてくれたのが、エルハムには信じられない事だった。

 出会った当時は、攻撃さえしてきたミツキだが、自分を少しずつ認め信頼してくれたのだろうか、とエルハムは思えて心が弾んだ。

 その浮かれた気持ちは言葉や表情だけでは足りなかったようで、エルハムはすぐにミツキに抱きついてしまった。


 「っっ……エルハムっ!急に抱きつくなっ!」


 エルハムより小さい少年は、エルハムの腕の中でバタバタと暴れながら抗議の声を上げた。
 けれど、彼が本気で嫌がっていたら、エルハムの事など突き飛ばしてしまう力を持っているのを、エルハムは知っていた。
 ミツキは、本気では怒っていないのだな、とわかると、エルハムはもう少しだけ彼を抱きしめ続ける事にした。


 「ニホン語を教えてくれるって、約束を交わすのならば、ぎゅーっとしなきゃいけないでしょ?」
 「……………はぁー………わかったよ。」


 ミツキは大きくため息をつきながらも、両腕を伸ばしてエルハムの体を抱きしめてくれた。
 その時、彼の耳が真っ赤になっているのを見つけて、エルハムは隠れて微笑んでしまったのだった。