「おまえ、兵士の前に立ったとき、泣きそうなぐらい怖かっただろ?けど、必死に我慢してる顔してた。」
「え………?」
「違うか?」
エルハムは、自分に敵意を見せてくる人を目の前にするのは初めてだった。自分の命を奪える武器がすぐそこにあり、キラリと光っていた。それを思い出すだけで、エルハムは身が震えてしまった。
怖くないはずがない。
痛いのも、死にそうな危機も、エルハムにとって恐怖でしかないのだ。
「………思い出すだけでも、震えてるな。あの時、なんでそんなに毅然とした態度でいたんだ。」
「………だって、私は一国の姫だもの。あそこで泣いてしまってはいけないの。シトロンの民の前で泣くことなんて許されない。………だって、私はみんなを笑顔にさせなきゃいけないから。」
「……………。」
年下の少年に、自分は何を言っているんだろうか。そう思いながらも、エルハムは彼に自分の正直な気持ちを吐き出してしまった。
今まで両親である王や王妃、セリムや世話係りの人にも話したことがない事だった。
これは自分の役割だから、果たさなければいけない事だからと、自分の中に蓋をしていた事。それを、会ったばかりの正体不明の少年に打ち明けてしまった。
けれど、それを後悔する気持ちは少しもなかった。ミツキならば話しても大丈夫。そう思っていた。
すると、抱きしめられたままだった彼の体がピクリと動き、エルハムと同じようにミツキの腕がエルハムの体を包んだ。