「その伝記、どうして………。」
「エルハムを助け出した後、騎士団の一人が部屋の中にこの本があったのを見つけたんだ。それを借りてきた。もちろん、チャロアイト国にも了解はもらってる。」
「………そうなんだ。ミツキ、ありがとう……。でも、これはミツキに読んで欲しいの。」
ミツキが差し出してきた本をエルハムは受け取らずに、そのままミツキの方へ手で本を押した。
ミツキが1番知りたい事が書かれている本。それをエルハムは命をかけてでも彼に渡したいと思ったのだ。
結局は自分の力だけでは本を取り返す事は出来ず、助けてもらってしまったけれど、エルハムの気持ちは変わってはいなかった。
本を受け取ったミツキは、真剣な表情で見つめた後、微笑を浮かべながら、「じゃあ、一緒に読もう。」と、言ってくれた。
3巻はとても薄く、すぐに読み終わるものだった。
そこには、日本に帰る方法など書かれてはいなかった。けれど、どうしてミツキはこの世界に来たのか、それが推測だが書かれていたのだ。
「………死んだ後の世界。」
「そうみたいだな。俺みたいに生まれ変わったわけでもなく、そのままの体でこっちに来るのは珍しいみたいだが………確かに、日本では殺されたのかもしれないしな。」
以前、ミツキが話してくれた夢の事。あれはこちらに来る前の現実。そうであったならば、ミツキはその時に殺されてしまったのだ。
伝記には、生まれる前の記憶がある人と何人か会った事があると示されていた。それは、違う国の人物だったが似ているところも多かったそうだ。この世界のように魔法があったり、髪の色や肌の色などは、そこまで種類は多くなかったり、と共通点は多いようだった。
そして、ミツキのように突然子どもが現れる事があったと昔の人も話していたのが残されていた。それは、図書館の司書が教えてくれたと書かれていた。
「…………じゃあ、ミツキは生まれ変わってこの世界に来たのね。そういえば、コメットの男も、生まれ変わる前の記憶があるって話していたわね。日本の事も知ってたし。」
「あぁ………。憶測の部分が多いが………。たぶん、それが有力な考え方だな。」
「…………じゃあ、ミツキは日本に帰れなかったんだ………。」