「っっ!くそっ!」
 「対魔法の石か!厄介な………。」


 ミツキは、咄嗟に持っていた木刀を男の顔面目掛けて投げつける。男は、当たる直前に後ろに飛んだ。

 その動きをよんでたのか、ミツキはすぐに体勢を直して、男に向かって剣を向けて突進する。魔法を使っている暇がなかったのか、男も自ら作った剣を構えて、ミツキの方を向いた。

 剣同士が激しくぶつかり、部屋の中に金属の高い音が響いた。
 剣術ではミツキが勝っている。男の力の掛け方や動きを覚え、かわしながら男を攻撃し続けると男は防ぐので精一杯の様子だった。

 そして、ミツキが男の剣を上手く払い、右肩から左腹部にかけて、斬りかかると男の体から血が溢れ出てきた。
 男は、体をゆっくりと地面に倒し、苦しそうに言葉を発しながら、剣を握りしめていた。



 「俺を倒しても他の奴らがお前たちを仕留める………一人でここに来たのが間違えなのだ。」
 「誰が一人でここに来たって?」
 「………なっ………。」


 ドドドドッと何人もの足音がこちらに向かってくる音が響いていた。
 男は自分の仲間だと思っているようだった。
 けれど、部屋のドアが開き入ってきたのはシトロンとチャロアイトの兵士達だった。


 「………シトロンだけではなく、チャロアイトの兵士も、だと。」
 「エルハムが誘拐されたんだ、アオレン王がチャロアイトに軍の派遣を要請したんだ。」
 「……なるほどね。」


 力なくつぶやいた男は、そのまま床に倒れ込んだ。すぐにチャロアイト兵がコメットの男を取り囲み、魔法を彼の体に当てていた。
 暖色の光は優しく男を包み、傷からの出血を止めていた。ミツキは回復魔法だとわかり、小さく息を吐いた。





 「…………ミツキ………。」
 「………エルハム。」


 エルハムは、よろよろとベットから降り立ち上がった。
 シーツで裸の体を隠し、肩からはミツキのジャケットを羽織っていた。

 ミツキに言わなければいけない事がある。
 そのはずなのに、エルハムは上手く言葉を出せずにいた。自分の手で口元に触れると、自分の体がガタガタと震えているのがわかった。

 恐怖からの安心感で、エルハムは一気に地からが抜けたのか、その場にへたり込んでしまいそうになる。が、エルハムの体を優しく抱き止めたのはミツキだった。


 「………ぁ………わたし………。」
 「いいから。今は何も言わなくていい。」
 「……っっ…………。」


 ミツキの優しい言葉。
 声、温かい体、視線、鼓動、香り、何もかもがエルハムの元に居る。
 
 それを直接感じたことで、エルハムは泣きながらミツキに体を預け、しばらくすると眠ってしまったのだった。