痛みはなかった。
 しかし、手首と足首に冷たい感触、そして重さから自由を奪われた。どちらにも鉄で出来た手錠と足枷がついており、鎖で重りも付いていたため、その場から動けなくなった。


 「………ぁ………。」



 エルハムは、拘束された手足を見つめながらも、ミツキから貰ったお守りは離さずに、手の中にあった。それを確認してホッとしたのも束の間。
 視界に影が入り、暗くなった。
 ハッとして上を向いた途端、頬を強く叩かれ、両肩を押され更にベットに体を沈めた。


 「私を叩くとはいい度胸だ。………体を楽しんだ後は、切り刻んで殺してやる!最後の快楽に溺れながら恐怖に震えて死ぬんで行くんだ!」
 「っっ…………。」


 エルハムの下着が、あっけなく破かれ、男の目の前で、裸になる。
 怖くないと言ったら嘘になる。

 けれど、自分の手の中でミツキからの宝物があり、ミツキのキスを最後に感じたままの唇が残っている。
 それだけで、エルハムは良かったと思えた。

 白い陶器のような肌に、赤い跡や歯形が付く。ぬるりとした水の感触と、水音。
 そして、2人の吐息。

 エルハムは、目を閉じ、音を聞かぬよう、ただ幸せだった日々を思い出しながら、最後の時を過ごそうとしていた。


 遠くから聞こえる足音に、2人が気づいたのは、その主が部屋の扉を開けた瞬間だった。


 「エルハムっっ!!」

 
 強く願いすぎて、幻聴かと思った。
 幻でもいいから彼に会いたいと思ってしまったエルハムの願いが、神様に届いたのだと、エルハムは声の方を向いて、ゆっくりと目を開けた。


 そこには、汗をかき、所々から血を流しボロボロになり、呼吸もあらい彼が居た。

 その姿が瞳に飛び込んできた瞬間。
 エルハムの目からはポロリと雫が流れたのだった。