「やはり、そうだったか。元日本人だとわ。あんな野蛮な国から来た人間だったなんてな。」
 「野蛮……?」
 「そうだ。俺がいた世界では戦争が多発していた。中でも、日本は特にたくさんの国と戦争をしていたよ。他の国より文明が遅れていた小さな島国のくせにな。」
 「そんな事ないです!ミツキは、戦争はもうしていない平和な国だと言っていました。それに野蛮なんかじゃないです。ミツキは、優しくて強くて、人が争うのを好む人間ではありません。」
 「でも、騎士団に剣術を教えていたんだろ?シトロンの騎士団長と互角の強さを持っていたんだろ?………戦う事が好きだったからじゃないか。」
 「違いますっっ!ミツキは、大切な人を守るために強くなろうとしているのです!あなたなんかに何がわかるのですかっ!」


 上手く動かなかった体に精一杯力を込め、エルハムは男の体を押した。そして、胸にあるお守りを片手で握りしめながら、大声で抗議した。

 大切な人を守れなかった悲しみ。
 強いと思っていた自分が、怖さで体が動かなくなった悔しさ。
 そんな事を2度と繰り返したくないという決意。

 彼が長い年月をかけて、考えて乗り越えてきた事。
 それを、何も知らない男に馬鹿にされるのが耐えられなかった。
 怖さよりも、その気持ちが勝った。

 エルハムは涙を浮かべながら彼を睨み付けて、気持ちの高ぶりからか呼吸を荒くした。
 そんな様子を冷淡な表情で見つめていた男。
 すると、右手の人差し指が光った。
 そして、それを軽くエルハムに向かって振りかざすと、シュッという空気の音が聞こえ、耳元でドスッと何かが刺さる音がした。

 エルハムがおそるおそる視線を横に移動させると、大きな針のような物がベットに突き刺さっていた。
 キラリと銀色に光るそれを見た瞬間、頬に焼けるような痛みを感じた。
 

 「…………ほら。綺麗な顔が傷ついてしまったじゃないか。」
 

 光が消えた指でエルハムの頬に触れる。
 チクッとした痛みを感じ、エルハムが男の指先を見るとそこには真っ赤な血が付いていた。
 それを見て、エルハムは初めて男に傷つけられたのだと気づいた。

 男はペロリとその指についた血液を舐め、妖艶に微笑んだ。