エルハムは、自分で決めてこのコメットの領地に来た。それは、セリムを助けるため、日本に戻すためだと思っていた。それもあったはずだ。
けれど、最後にミツキに会いに来たのは何故か。最後の挨拶をしに来たのか。手紙を渡すためか。
どれの理由も当てはまる。
けれど、ミツキに会いに来る事で騎士団や看守に見つかったり、手紙がバレる可能性もあるのだ。本当ならば会いに来ない方がよかったはずた。
それなのに、会いに来たのは何故か。
「セリム団長。悪い、ここは任せた。」
「………早く行け。そして、エルハム様を助けるのだ。」
「ああっ………!」
ミツキは、力強く返事をすると、勢いよく地面を蹴った。
そして、一目散に正面のドアに向かった。
すぐに魔法で攻撃されるが、そのまま突っ込んだ。対魔法の宝石のお陰でダメージは小さかったが、それでも所々に傷がついたのは、魔法を放った者が高位魔法を使ったためだろう。
痛みに耐えながら、その者達に近づく。敵のすぐ近くに入ってしまえば、ミツキの方が圧倒的に有利だった。
すぐに剣で数人を斬り、そのままドアへと向かった。
すると、後ろからドンッッ!という、強い衝撃音と暖かい風を感じて、ミツキは後ろを振り向いた。
すると、セリムが魔法を避けながら戦う姿が見えた。炎魔法を受けたのか、左肩が焼けて黒くなっていた。対魔法の宝石を持っていればそこまでの傷を負わないはずだ。
セリムは苦痛を滲ませた顔を一瞬見せたが、すぐに剣を握りしめて次々に敵を倒していく。
その気迫は、凄まじい者でコメット達もたじろぐぐらいだった。
「……………セリム。おまえ、まさか………。」
ミツキが呟いた言葉がセリムに聞こえるはずはない。
だが、セリムはこちらを見て、フッと笑みを見せた。
「高価な宝石だと言っただろ。私も生憎1つしか持っていないのだ。」
「…………セリム。」
「さっさと行けっ!ミツキっっ!」
その言葉に背中を押されるように、ミツキは目の前から飛びかかってくる数人のコメットを一振りで倒してから、すぐにその部屋を出た。
後ろからは罵声や剣の音、そして、魔法による爆撃の衝撃が伝わってきた。
けれど、ミツキは歯を食い縛ったまま、ただただまっすぐと道を走った。
この道がエルハムへと続くと信じて。