「いや……やめて………ミツキ………。」
 「お姫様が約束したのですよ。専属護衛の冤罪をはらせば、体を差し出すと。」
 「…………それをあなたはしてきたの?」
 「もちろんです。私はあなたの約束を守りました。お姫様も守ってくださいますね。」
 「…………それは。」
 「今、抵抗して殺されるか。………助けが来るまで私に抱かれて生きている方がいいのではないですか?………最後に誰も助けに来なかったら、殺してしまいますけどね。」
 

 楽しそうに笑う男をエルハムは睨み付けた。
 
 けれど、エルハムは約束の事を言われて思い出した。
 この男はきっとミツキに伝えたのだろう。
 その方が楽しいと思っているようにも見えたからだ。
 それに約束は約束だ。
 姫として守らなければならない。

 それに、どうせ殺されるのならば、抵抗しても無駄なのはわかっている。
 彼は少し見ただけでもただ者ではない雰囲気を感じることが出来るのだ。エルハムが逃げたり、拒否した時点で殺されるだろう。

 こんな男に好きにされるのはイヤだった。
 けれど、目の前の死が何よりも怖くて仕方がなかった。
 約束を破ってしまった事で自分は殺され、ミツキにも何かされるのではないかとも思った。


 エルハムは、力を込めて必死に動かしていた腕や足の力を抜いた。
 そして、目をギュッと瞑って顔を横に向けた。

 
 そんな様子を見て、男は楽しそうに笑っていた。

 
 「そうです。やはりお姫様は賢い。私に体を預けていれば、楽になります。……楽しくて気持ちのいい事を一緒にしましょう。」


 冷たく刺さるような男の指が、エルハムの体をなぞった。
 
 エルハムは心の中で悲鳴をあげながら、「ミツキ………」と名前を呼び続けて、この悪夢が早く終わる事を願い続けた。