第45話「甘い香りの悪夢」
☆☆☆
ふわりと甘い香りがした。
お菓子のような、甘い香りだ。花とは違う、作られた香り。
エルハムはそれを嗅いでから、頭がボーッとして先ほどからうとうとしてしまっていた。
寝てしまえば楽なのかもしれない。
けれど、寝てはダメだ。ここはコメットの隠れ家なのだから、何をされるかわからない。
そう思い続けていたはずなのに、甘い匂いと眠気には勝てなかった。
部屋の中に誰か入ってきたのか、ドアにかけられた鍵が開かれる音が聞こえた。
コツコツとゆったりとした足音が響く。そして、その後に感じたのは頭を撫でる感触だった。髪に触れ、優しく撫出られているはずだった。
それなのに、ミツキの体は何故か震えていた。
「ミツキ………。」
助けて。
そう言うはずだった言葉。
それをエルハムは自分で止めた。
ここに来ると決めたのは自分なのだ………朦朧とした頭でもそれだけは忘れなかった。
頭を撫でた手はエルハムの言葉を聞いて1度停止した。「…………。」頭を撫でる人が何を言っているのか、エルハムはわからなかった。
先ほどまでの震えはゆっくりと治まり、エルハムはすっと夢の中に入った。
甘い匂いは、全てを忘れさせてくれるかのように、怖さや不安が消えていくようだった。