それ以降、ミツキが声を掛けても男が話をする事はなかった。
エルハムが寝ているとわかるという事は、今でも彼女のそばにあの男がいるのだろう。
そう考えると、隠れ家を早く見つけなければ、とミツキは言われた方向に走った。
あの男に報告が来たという事は、ミツキをどこかで隠れて監視している敵が居るという事だ。焦りがあったため視線に気がつかなかったのだ。
ミツキは、走りながらも周りの気配を探った。すると、何となく後ろから視線を感じたのだ。今まで気づかなかった自分に驚きながらも、それほどに気を乱していたのだと気づき、改めて気を引き締めた。
男が話した通り、洞窟が見えてきた。
その前には数人の黒衣服が数名居た。そして、その洞窟には家のようになっているのか、普通の民家と変わらない木の外壁やドアがあった。ミツキは、腰に下げている剣をギュッと握りしめた。この日、ミツキは左腰には騎士団から支給された剣を。右腰には日本から持ってきている木刀を持っていた。その他にも短剣など持てる武器は持った。
1人で攻め込むのだ。何があるかわからない。準備して悪いことないと思っていた。
突入にするに当たり、ミツキはどうするか考えていた。強行突破。
それしか方法がなかった。
もしかしたら、あったのかもしれない。けれど、焦りや不安などから、何も思い付かなかった。
「待っててくれ、エルハムっ………。」
ミツキは剣を抜刀して、体の脇に添え、ぎゅっ柄を握りしめた。緊張からか、鼓動が早くなる。自分の全身がドクンドクンと波打っているようだった。
木陰から1歩足を踏み出した。
が、体が前に進むことはなく、後ろに引っ張られた。ミツキはこの時、腕を引かれたのだと気づき、警戒しながら後ろを振り返った。