「セリム様、ミツキ様………どうか、エルハム様をお助け下さい。私はまだ、エルハム様に助けてもらったご恩をお返し出来てないのです。どうか、よろしくお願いいたします。」
セイは、2人見つめた後、深く礼をした。
頭を上げることはなく、ずっと頭を下げていた。ポトリポトリと、涙が床に落ちていく。
ミツキはそれを見て、手を強く握りしめた。
「………俺は1人でも行く。無駄だとしても、エルハムが居るのがわかっているのなら、行くだけだ。」
ミツキがそうその場に言葉を残して、背を向けて歩き始めた。
もうセリムがミツキを止める事はなかった。
ミツキはすぐに森を抜けてトンネルを潜った。
そして、チャロアイトの門番の前に立つ。
ミツキは異世界人で私証を持っていなかった。
止められる事はわかっていたが、話をしてとおして貰うつもりだった。もし、それでも通行が許可されなければ力で強行突破するつもりでいた。
しかし、チャロアイトの門に立っていた一人の兵士がミツキを睨み付けるように見ていた。
きっと、エルハムの専属護衛だと知っているのだろう。
ミツキは、小さく息を吐きながらその門番へと足を進めた。
「シトロン国の第一王女の専属護衛のミツキだ。緊急でここに来た。申し訳ないが、ここを通してくれないか。」
「…………遅い。」
「………え………。」
「遅いんだよっ!姫様は一人で森へ行ってしまった!何でもっと早く来ない!?」
その兵士は予想外の事で怒っているようだった。あまりの出来事に、ミツキは驚いてしまい、返事が出来ずにいた。
その男は持っていた槍を地面にダンッと押し付けると、またミツキに怒りの言葉をぶつけた。
「姫様は、隠れて何度もここに来ていただろう。お忍びだったのだろうが、俺たちはわかったさ。それはいい。きっと姫様にも理由があるのだろう。けど、昨日の夜は違った。……コメットのところに行ったんだろ!?だったら専属護衛が止めないでどうすんだ!」
「それは………。」
「あの姫様は、公務でここに訪れる度に俺たちみたいな敵兵にも挨拶して老を労ってくれる人だ。あんな人がいなくなるなんて、おかしいだろ。…………さっさと助けてこい!そして、姫様を連れてくるまでここに来るな。」
そう言うと、ミツキの背中を押して、チャロアイトの門をくぐらせたのだ。
私証を持っていないミツキを自分に国に入れてしまうなど、規則違反だ。
けれど、周りの門番もそれを止めようとはせずにミツキは見つめていた。その視線には「早く行ってこい。」と、送り出そうとするものだった。
ミツキは少し戸惑いながらも、チャロアイトの門を何の心配もなく通れた事に感謝しながら、門番達を見た。
「すまない。………感謝する!」
ミツキは、そう言いすぐにそこから離れた。
「姫様はそこの森の奥だ。……洞窟を拠点にしてるって噂があるからな!」
背中を押してくれた男が、大声でそう教えてくれた。
ミツキは背を向けたまま右手を上げて、森へと急いだ。