部屋から逃げてきたのだろう。
 セイは騎士団に押さえつけられていたけれど、必死にこちらに手を伸ばしてセリムを見ている。
 興奮していたセリムも驚き、ミツキではなく彼女を見つめ近寄った。


 「セイ………どうした?」


 セイの体を掴んで制止させていた騎士団に離すよう目で促し、セリムは彼女の顔を覗き込みながらそう尋ねた。
 すると、セイは目にいっぱいの涙を浮かべ、ボロボロと泣き始めたのだ。
 セリムは、「どうしたのだ!?何かあったか?まさかコメットに………。」と聞くと、セイは頭を横に振り、手で涙を拭き、嗚咽をもらしながらしゃべり始めた。


 「エルハム様が昨晩、私のところへ会いに来てくださいました。………今までありがとう、仲良くしてくれて、嬉しかったと……。」
 「…………。セイの所にもエルハム様はいらっしゃったのだな。」
 「はい。そして、エルハム様からセリム様に渡して欲しいものがあると………お預かりしておりました。」


 セイは震える手で、ある物をセイに差し出した。それは、刺繍の入った白いハンカチだった。
 

 「………これは………。」
 「エルハム様が刺繍をしたものです。日頃の感謝を伝えたくてとお話ししていました。……直接渡すのは恥ずかしいとの事で、私が預かっていました。」
 「…………。」


 セリムはそれを受け取り、自分の名前が綺麗に刺繍されたところを見つめ、ゆっくりと指で触れた。


 「………エルハム様が………。」


 セリムの目には涙が浮かんでいた。
 愛しいものを見つめる優しさや、悔しさ………そんな複雑な感情が混ざりあった表情となっていたのをミツキは感じ取った。