「突然、呼んでごめんなさい。少しあなたとお話がしたくて。」
「…………あんた。本当にお姫様だったんだな。あの男に姫様とか呼ばれてるから、まさかと思ったけど。」
あの男というのは、セリムの事だろう。
少年は、そう言うとばつが悪いのか、1度エルハムと目が合った後、すぐに視線を逸らした。
「この小さな国シトロンの第一王女、エルハム・エルクーリよ。あなたは?」
「タテワキ………ミツキ・タテワキ。」
「ミツキ………聞いたことがないわ。その名前に意味はあるの?」
「俺の国の文字では光の樹って書いてた。」
「光の樹……素敵ね。太陽の光を浴びて大きく育ってほしいって願いがこめられてるのかしら。あなたの国の名前は、意味がしっかりとあるのね。」
「………なんで、俺を助けた?」
ミツキはそう言うと、エルハムが座っている大きなベットに近づいてくる。
視線はすでにエルハムの方を向いており、部屋に入ってきた時よりも厳しいものだった。
彼が何故その事を知りたいのか、エルハムにはわからない。けれど、エルハムは正直に思いを伝えることにした。
「私の母親の言いつけなの。この国にいる人を笑顔にしなさいって。……ミツキは、笑ってなかった。怒ってたし、辛そうだったし……少し泣きそうだった。」
「………………俺が、泣きそうだった?」
「……私にはそう見えたの。」
「俺は泣きそうなんかじゃなかった!それに、俺はこんな知らないところでも、一人で生きていける。現に、お前の国の兵士を倒したじゃないか!俺は助けてもらわなくたって、生きていけたんだ。」
エルハムの言葉がいけなかったのか、ミツキは感情が高ぶっている様子だった。
けれど、今の言葉で、彼がこの国の事を知らないのがよくわかった。
「ねぇ、ミツキ。あなた、この町に行った事があるわよね?出会ったときに被っている布はこの国の物だったわ。」
「……1度だけ行った。」
「その時、あなたはシトロンの人たちに、ジロジロと見られたり、快い態度を取らなかったんじゃないかしら?」
「っっ!」
「………ここの国では、私証を見せないと家を借りれない。それに、あなたのような黒髪に黒目の人間はいないの。このシトロンだけじゃない。隣国の国では、ね。」
「……………。」