深夜という事もあり、森は真っ暗で静けさがどこまでも続いていた。
 木々や草が風でなびく音や、夜行性の動物の鳴き声、そしてエルハムが歩く足音だけが響いていた。

 エルハムは恐ろしくなりながらも、そのまま森の奥へと進んだ。

 
 しばらく歩いていると、急に強い視線を感じた。前に図書館で感じた視線と同じ、体が震えるほどの鋭さだ。

 エルハムはその場に止まり、その視線がどこから来ているのが探ろうとしたけれど、全くわからなかった。
 ふーっと息を吐いた後、エルハムは震えそうになりながら、声を出した。


 「私は、シトロン国第一王女エルハム・エルクーリよ。ここに来た理由はわかっているでしょう?案内してくれないかしら?」


 何処に居るのかもわからない相手に、エルハムは話し掛けた。
 すると、エルハムの背後の草むらからガザッと音がした。エルハムが慌てて振り向くと、そこには黒い頭巾を被り、口元も黒布で隠し、黒いマントで体を覆っている人物が姿を表した。

 エルハムは背中に冷や汗が流れるのを感じながらも、背筋を伸ばしてその人物を見据えた。


 「お待ちしておりました、エルハム様。必ず、ここに来ていただけると思っていました。」

 声を聞いて、その人物が男だとわかった。その男は、ダンスでも誘うかのように、大袈裟に頭を下げて礼をした。


 「………こんな手紙を貰ったのならば、招待されるしかないじゃない。」


 エルハムは、ワンピースのポケットからある紙を取り出した。
 それは、チャロアイトの図書館から借りた本に挟まっていた、紙だった。
 そこにはメッセージが残されていたのだ。


 『金髪の姫様。
  この本の続きが欲しければ、チャロアイトの1番大きな森へお1人で来てください。5日経っても来ない場合は、その本は焼いて処分します。コメット一同、皆あなた様のお待ちしております。』