大好きで大切なミツキ。
 彼には何度も助けられてきた。
 命の危険があった時も、母の記憶で苦しんだ時も………どんな時でも彼が傍に居て支えてくれた。
 そんなミツキに自分は何が出来ていただろうか。そう考えると、何も出来ていない事に改めて気づいた。

 そして、今。
 ミツキは苦しんでいるのだ。それも、自分の行いのせいで。そんな彼を助けなければいけない。
 今度は、彼を守る番なのだ。
 
 自分より小さかったミツキ。昔は守ってあげる事もあったかもしれない。けれど、すぐに彼は大きくなり自分の専属護衛となりシトロンの騎士団となり、守ってくれる存在になった。
 異世界から来た彼にとって、頼れる存在などいなかったはずだ。
 そんなミツキがピンチになった。


 「私が、助けるから。ミツキ………もう少しだけ待っててね。」


 エルハムは、自分の手を強く握りしめて夜の街を抜け森を走り、数日前にも来たチャロアイトへと続くトンネルを歩いた。
 真夜中という事もあり、人はほとんどいない。夜は、危険も多いため商人が通る事はほとんどなかった。
 荒くなった呼吸を整えるように、トンネルを歩く。ここの来ると、思い出すのはミツキと出会った時の事だ。

 真っ黒な髪と瞳。鋭い視線で睨み、持っていたボクトウを握りしめて、エルハムを威嚇していた。
 そんな野良犬のように彼を思い出すと、エルハムは自然と頬が緩んだ。


 「あの頃のミツキ………可愛かったわよね。弟のように思ってたのに。………今では、どちらが年上なのかわからないわね。」


 そんな小さかった少年は、立派な騎士団になり街の人々が憧れる存在になった。


 「………ミツキ、かっこいいものね。街のみんなが憧れるのもわかるわ。………私も大好きだもの。」


 エルハムは、少しだけ照笑いを浮かべた。
 青い正装に防具を付け、剣を持って戦う姿は凛々しく男らしく、誰もを魅了してしまう。
 そんな彼が自分の専属護衛になったのが、誇らしく嬉しかった。


 そんな彼が、先ほどまで弱々しくエルハムを見つめていた。それを思い出すだけで、胸が苦しくなる。

 そんな事を思い出していると、真っ暗なチャロアイトの門が見えてきた。
 トンネルからエルハムが歩いてくるのを見た看守は、初めは怪訝な目で見ていたが、それが誰かわかると、驚いた表情を見せた。


 「………行ってくるわ、ミツキ。………さようなら。」


 ミツキはまっすぐとチャロアイト国の門を見つめると、堂々と歩き出し、門番の元へと向かった。