エルハムは、ミツキの言葉を聞いてミツキにしがみつくように体に抱きついた。
 エルハムの体が震えている。泣いている。そうわかったとき、ミツキは鉄の手錠がついた手でエルハムを抱き締め返した。チャリと鎖の音が響く。
 彼女が居て幸せなはずなのに、その音を聞くとここが何処なのかを思い出させる。不吉な音だった。

 エルハムは涙を拭いて、体を離した。そして、ミツキの手を優しく両手で握りしめた。


 「ミツキ、私が何とかするから。………ミツキは今まで私を何回も守ってくれた。だから、今度は私がミツキを守る番。」
 「エルハム………。何をするつもりなんだ?」
 「内緒よ。……大丈夫!私はこの国の姫よ。あなたを守ってみせるわ。」


 いつものようにニッコリと笑うエルハム。
 その微笑みを見て幸せのはずなのに、何故が胸がざわついた。
 彼女がとても儚くみえ、すぐにでも遠くに行ってしまいそうだったのだ。

 エルハムはゆっくり立ち上がると、ミツキに背を向けた。


 「エルハムっっ!」


 ミツキは体を起こして、エルハムに向かって手を伸ばそうとした。けれど、ジャリッと鎖で繋がれた手錠がそれを阻んだ。
 エルハムの腕をつかめず、ミツキの腕はピンと伸びたまま、エルハムを求めて止まった。

 ミツキに呼ばれたエルハムは、1度その場で立ち止まった。
 けれど、こちらを振り向くことはしなかった。


 「ミツキ………日本に戻って幸せに暮らしてね。」
 「……………ぇ…………。」
 「……………。」
 「………おいっ!どういう事だよ。どうしてそんな事言うんだ?………エルハムっ!エルハムーーっっ!」


 ミツキが呼ぶ声は牢屋に響き渡る。
 けれど、金髪の彼女は振り向きもせずに、後ろ姿のまま去っていった。

 ミツキは、何度も鎖を引っ張り手錠から抜けようと試みたが、手首が赤く腫れ上がるだけで、何も変わらなかった。
 エルハムが来たのが夢だったかのように、牢はまた、静けさが戻っていた。