そんな時だった。
 コンコンッ。と、部屋の扉を控えめにノックする音が聞こえた。


 「エルハム様、朝食の準備が出来ました。………それと、先ほどから大きな声が聞こえますが………大丈夫でしょうか?」
 

 エルハムの使用人が心配して声を掛けてくれたのだ。
 セリムはそれに驚き体を離した。
 その隙に、エルハムはセリムの体を押してベットから降りて、逃げるようにドアまで近寄った。
 そして、すぐにドアを開けて使用人に挨拶をした。


 「ごめんなさい。セリムと話をしていたの。セリムも今から仕事で退室するから、今日はここに朝食を運んで。」
 「かしこまりました。」


 使用人は静かに頭を下げた後に、朝食を取りに戻った。


 「セリム………もう話はおしまいにしましょう。」
 「エルハム様、私は………。」
 「セリム、これだけはわかって。私はミツキを信じている。けど、あなたも大切な仲間よ。セリムの事も信じていた。それはわかってほしいわ。」
 「…………。」


 エルハムがそう言うと、セリムはハッとした様子を見せたが、すぐにうつ向きそのまま部屋を出ていった。


 彼がドアを閉めた瞬間。
 エルハムは、体から力が抜けて、ゆっくりと座り込んでしまった。
 セリムの突然の告白と、キス。そして、見たこともない男の人の顔。
 エルハムは体が震え、自分の腕で体を抱き締めた。


 「………なんで、こんな時にあんな事を言うの。そして………。」


 エルハムは指で自分の唇に触れた。
 セリムの熱い体温と、濡れた感触。それを思い出して、エルハムは手の甲で唇をさすった。


 「………私も同じような事してたんだよね………。好きになると、気持ちが抑えられなくなるのかな………。」


 エルハムは、そう呟きながらその場で呆然とした。

 けれど、そろそろ使用人が来る頃だと思い、立ち上がろうとした時だった。
 ベットの脇に、昨日図書館から借りてきた本が落ちていた。
 セリムとのいざこざがあった時に、落としてしまったのだろう。エルハムは、その本に近づき、拾い上げた。


 「これは大切なものだから、壊すわけにはいかないわ………あら。」

 持ち上げた瞬間、本に挟まっていた何かがひらりと床に落ちた。それは白い小さな紙だった。

 エルハムは不思議に思いながら、それを手に取ると、そこには何かが書かれていた。


 「………これは………。」


 そこに書かれている文字を見た瞬間、エルハムは顔が真っ青にして体を固めてしまった。
 それでも、視線はその紙から目が離せなかった。