「おまえは一国の姫なんだ。おまえがいなくなれば騎士団全員に迷惑がかかるんだ。そして、皆が心配する………。」
 「…………それもわかっております。けれど、私は私の気持ちのままに動きました。今でも、自分がやった事が間違いだと思っていません。」
 「エルハムっ!」
 「………姫だから心配なのですか?一国に住む人間誰であっても私は同じだと思います。………ミツキだって、シトロン国の住民です。私は、今、ミツキが心配です。」


 エルハムは、そうアオレンに言うとそのままカツカツと足音を響かせてアオレンの部屋から出た。後ろから、アオレン王やセリムの声が聞こえて来たけれど、エルハムは無視をした。


 エルハムは、自室に戻り使用人に「もう寝るので今日は食事も何もいらない。」と伝え人払いをした。
 ベットに横になりながら、エルハムはミツキに何度も謝罪していた。


 「私が軽率だったわ。ミツキの優しさに甘えてしまっていたのだわ。」


 エルハムは枕に顔を埋めたまま呟き、自分の行いを反省した。
 セリムが、ミツキを密偵だと疑っている事も知っていた。そうなると、城の中や国の人々でも、彼を疑っている人間はいるという事だろう。それなのに、ミツキをチャロアイトの入り口まで来させてしまったのだ。
 そして、密偵だと思われてもおかしくない状況を作りだしてしまった。

 けれど、ミツキの部屋にあったという偽造された手紙。彼の綺麗な字を見たことがあるのであれば、あれが偽物だとわかるだろう。
 けれど、ミツキを詳しく知らない人物にとっては徹底的な証拠になるはずだ。
 
 この話しは城内部の人間には広まっているだろう。そして、口止めしてあったとしても、国の人々に伝わるのは時間の問題だった。


 「また、偽の噂が広まってしまう………こんなの、昔と同じじゃない。」


 エルハムは顔をあげて、棚の上に置いてあるティアラを見つめた。
 母が残した大切な宝物。


 「お母様………私はどうすればいいのでしょうか?」


 エルハムは、助けを求めるようにそのティアラに向かって言葉を投げ掛けた。
 けれど、ティアラは宝石をキラリと光らせるだけで、答えなどくれるはずがなかった。