けれど、ミツキはエルハムを待ってくれているはずだ。
 自分のしてしまった事を謝り、もう一度気持ちを伝えよう。
 エルハムは心の中で決心をして、ぼんやりと光る道を抜けた。

 シトロンは相変わらず雨が降り続いていた。
 エルハムは濡れるのも構わずに走った。もちろん、本は濡れないように大切に鞄に入っている。その鞄を胸に抱きながら、ピチャピチャと濡れた道を音を立てて走っていた。

 しばらく歩いて、エルハムは異変に気づいた。

 ミツキが用意し、彼が待っているはずの古びた馬車が見当たらないのだ。
 場所を間違えるはずはないが、森の中だ。もしかしたら、勘違いをしたのかもしれない。そう思い直して、エルハムは周囲を歩いた。
 けれど、ミツキも馬車もそこにはなかった。



 「ミツキ………どこに行ってしまったの………。」


 エルハムの震える声は、雨音に消えてしまった。