3巻の事はとても気になる。
けれど、今は考えている余裕がないとわかると、エルハムは魔法の椅子に急いで「受け付けまで戻して。」と呟いた。
ゆっくりと降りていく魔法の椅子。前は怖いのあり丁度いいと思っていたけれど、今はもっとスピードを出して欲しいと思ってしまった。
椅子に座っている間、エルハムは本を抱き締めたまま俯いているしか出来なかった。
地上に降りても、その視線を感じられたのでエルハムは急いで借りる手続きをしてから、司書に簡単にお礼を言って図書館を出た。
図書館を振り返る事なく足早にその場から離れた。
しばらくチャロアイト国の人通りが多い道を歩いていると、フッとあの強い視線を感じなくなった。
エルハムはそこでようやく周りを確認する事が出来た。キョロキョロと辺りを見てみるけれど、もちろん怪しい人など見つけられるはずもなかった。
エルハムは、自分が持っている本が揺れているのに気づいた。そして、それをよく見ると、エルハムの手が震えていたのだ。そして、ドクドクと鼓動も早くなっている。
自分がこんなにも恐怖を感じていたのだと、エルハムはこの時初めてわかった。
ゆっくりと深呼吸をして、セイの服の下に隠してあるお守りを握りしめる。
ミツキから貰ったニホンのお守り。
「大丈夫……あの視線は気のせいよ。コメットの話しをしたから変に意識しただけ。」
エルハムは自分にそう言い聞かせるように独り呟いてから、小走りにチャロアイトの門番のいる場所へと急いだ。
私証を見せ、シトロンに繋がるトンネルを歩きエルハムはミツキが待っている場所へと急いだ。
急いでいるつもりだった。
けれど、少しずつ足取りが重くなってきてしまう。先程チャロアイトに入った時と同じだった。
自分から彼に告白して、キスまでしてしまい、そして彼の気持ちを聞くこともなく逃げてきたのだから、仕方がない。
ミツキに会いたいけれど今は会いにくい。
そんな風に思ってしまった。