カウンターで本を返し、前回と同じように魔法の椅子に乗って、目的の本がある棚まで連れていって貰う。
 その間、ゆらゆらと揺られながらエルハムは先程の司書の話しを思い出していた。
 セイのお店や城を襲撃したコメットは、ミツキが戦っても簡単には倒せない相手だった。しかし、相手が魔法を使えるとなるとチャロアイトで襲われた場合は、更に強い相手になっているという事だ。そう考えると、エルハムは体がぶるぶるっと震えた。
 やはり狙われている自分が、今この時にチャロアイトに居ることは危険なのだと改めて感じた。
 エルハムは、早く本を借りてしまい、すぐにチャロアイトを出ようと思った。

 ゆっくりと上へ上へと上昇する椅子が、やっとの事で目的の棚に到着した。そして、棚の1ヶ所がぼんやりと光り、目的の伝記の続きをすぐに見つけることが出来た。


 「今度は2巻ね………。あれ?3巻がない………。誰かが借りたのかしら。」


 前回来た時は、全3巻が揃っていた。けれど、今は近くの棚を見ても2巻しかないのだ。
 1巻は先程エルハムが返却したばかりなので、ここにはないのだろう。
 しかし、3巻がないのは不思議だった。
 どうして、急に途中の巻を借りていくのか……。

 理由を考えながらもエルハムが2巻を手に取った瞬間。


 「……………っっ。」


 エルハムは、突然誰かの強い視線を感じたのだ。見られていると感じた瞬間に、体が震え、寒気がしてくるほどに強い視線だった。
 どこから見られているのかはわからない。
 けれど、それを確認する勇気はエルハムにはなかった。