「ドライ。」


 彼女が小さな声でそう呟いた瞬間、伸ばした手のひらから、光とともに風が吹いた。それがエルハムの回りをぐるぐると回り始めたのだ。
 

 「えっ……なんですか、これっ!?」


 髪や服が風でバタバタとなびく。けれど、その風は暖かく心地いいものだった。持っていた本が飛ばされないようにエルハムは胸に抱き締めていた。
 しばらくの間、その風に吹かれながらエルハムはただ立っている事しか出来なかった。ゆっくりが温風が止んでくる。


 「よし!これで大丈夫ね。」
 「あの、何でそんな………あれ?乾いてる。」


 自分の変かに気づいたエルハムは、驚きの声を上げた。あんなに濡れていた洋服や髪、そして本がしっかりと乾き、元通りになっていたのだ。


 「私の風魔法よ。濡れたままでは本に触れないでしょ。」
 「魔法……見たことはありましたけど、実際に肌で感じたことはなくて。すごいですね!」
 「あぁ。あなたは他の国から来たんだもんね。それは珍しいでしょうけど……こんな小さな魔法はそんなにすごくもないわよ。」
 「そうなんですか?……とても素敵なのに。」

 エルハムは先程の温かい風を思い出すだけでワクワクしている。それぐらいに、司書の女性の魔法は魅力的だった。自分の思い通りに風が操れるなんて、どんなに楽しいだろうか。そんな風に思った。
 けれど、司書の女性は少し顔を歪ませながら微笑んだ。


 「もっと強力な魔法だと、人を傷つけたり殺してしまうものもあるわ。……魔法は便利だけど恐ろしいものよ。」
 「………そうなのですね。」
 「特に反政府組織のコメット達は強い力を持っているの。」
 「…………。」
 「あぁ、ごめんなさい。怖がらせてしまったわね。あなたみたいな女の子に話す事じゃなかったわね。さぁ、図書館に入りましょう。」


 彼女は申し訳なさそうに微笑みながら、図書館のドアを開けてくれた。
 エルハムはぎこちなく笑顔を返し、彼女の後に続いた。