エルハムは憂鬱な気持ちのまま、図書館の古びたドアを開けた。
 そして、入ってすぐにある本の返却カウンターへと向かった。


 「これ、返却お願いします。」
 「はい………。って、あなたずぶ濡れじゃない!どうしたの?」


 驚いた声をあげたのは、以前図書館の利用方法を詳しく教えてくれた女の司書さんだった。
 エルハムや、持っていた本が濡れていることに驚いた様子だった。


 「すみません。シトロンは大雨でして………来る途中に濡れちゃいました。」
 「その格好じゃ、図書館に入れないわ。他の本も濡れてしまうもの。…………あなた、外に出て頂戴。」
 「え………でも、私、どうしても借りなければいけない本があって。」
 「いいから!」


 その司書は、エルハムの腕を掴みズンズンと歩いて行く。引きずられるように、エルハムは図書館の外に出るしか出来なかった。
 無理矢理帰されてしまったらどうしようと、エルハムは焦ってしまった。服を買って着替えれば入れるだろうか。けれど、それでエルハムの正体がバレてしまうのも避けたい。
 そんな事を考えていると、司書は図書館から出ると、エルハムの手を離した。


 「あの、服が乾くまで待っててもいいですか?」
 「そんな事しなくても大丈夫よ。ほら、そこに立ってて。」
 「え………?」


 エルハムが不思議に思い、司書の女性に話しを掛けようとした時だった。
 女性の右手が光り始めたのだ。
 それが魔法だとすぐにわかり、エルハムは戸惑った。彼女が何故魔法を使い始めるのかわからなかったのだ。

 そして、彼女の腕が伸び、手のひらがエルハムの方へと向けられて。
 エルハムは咄嗟に目を瞑った。