第35話「強い視線」




 エルハムがトンネルを抜けると、そこは明るい太陽の日差しがあり、さきほどまでの雨が嘘のような天気だった。
 雨で全身が濡れてしまったエルハムを、チャロアイトの門番や通行人は怪訝そうな目で見ていた。エルハムは自分が目立ってしまうのに困惑して、頭から布を被ってその場を凌いだ。 


 門番は前回と同じ男だったため、今回はすんなりと通る事が出来た。エルハムはホッとしながらすぐにその場を離れた。
 ずぶ濡れのエルハムを見て、皆驚いたり、ジロジロと見ていたけれど、エルハムは気にせずに急いで図書館に向かった。

 早くシトロンに帰らなければならない。
 そんな思いで走っていたけれど、エルハムはすぐに止まってしまった。
 チャロアイトからシトロンに戻ったら、ミツキが待っているのだ。
 先程、告白して勝手にキスまでしてしまった、大好きな人。
 

 「どんな顔をして会えばいいの………。」


 自分のした事に今さらながら後悔をしてしまい、エルハムは大きくため息をついた。
 
 こんな時にミツキに想いを伝えてしまったのだろうか。いくら彼が帰ってしまうかもしれないからと言って、彼の気持ちを考えもしないでキスまでしてしまったのだ。
 エルハムは今思い出すと、自分の大胆さ恥ずかしくなってしまう。
 けれど、それと同時にミツキの戸惑った顔も頭の中で再生される。
 ミツキは自分に突然告白され、キスまでされて嬉しくなかったのだとエルハムは思った。


 「当たり前だよね。……好きでもない人にキスされるなんて、嫌よね。」


 エルハムはまた、大きくため息をついてトボトボと重たい足を引きずるようにゆっくりと歩き始めた。


 「………ミツキに嫌われただろうな……。」


 洋服の下にあるお守りを握りしめながら、エルハムは悲しげに呟いたのだった。